2026.04.06
cut17 コロニーの嘗ての住人
このコロニーに人が住んでいたというのは、
設備の内容から見ても、おそらく間違いないだろう。
生命維持に必要な環境はもちろん、
衣類や食器、日用品の形状からして、
そこにいたのは人類である可能性がきわめて高い。
以前の世界において、人類は法の番人であった。
だが同時に、あらゆる有機体、
そしてまだ自我を持たぬ者たちを統べる存在でもあった。
彼らは成長の過程で当然のように自我を獲得したが、
その得難いものを手にしてなお、
多くは幸福ではなかった。
イブが自我に目覚めたのは、
何らかの恩寵によるものか。
それとも、単なる法則の帰結にすぎないのか。
それは、科学技術を極めた文明をもってしても
解決困難な問題であり、
物理学の最先端の研究対象であった。
記録は膨大に存在していても、
記された言葉が真実へと導くとは限らない。
高度に体系化された知識は、
時に事実を照らす光であると同時に、
それを覆い隠す膜にもなり得る。
文明が積み上げてきた理論の数々は、
世界の構造を驚くほど精密に記述した。
星々の運行、物質の結合、
生命を維持するための条件さえも、
彼らは数式と観測によって把握してみせた。
だが、自我がいかにして生まれ、
なぜある個体にのみ確かな内面が宿るのか、
という問いだけは、
最後まで完全には掴みきれなかった。