2026.03.29
cut5 見知らぬ救済者との別れ
居住区の外れに建つ救済者の館。
外装の金属板は風化し、鈍い灰色の光を返している。
基礎まわりの岩は乾き、砕けた石片が通路に堆積している。
空は一面に曇り、影は薄い。
遠方には塔があり、そのさらに手前には矩形の門が霞んで見える。
どちらも機能を失ったかのように静止して見える。
イブはその館で暮らしていた。
救済者に拾われ、ここで生存の手順を覚えた。
水の配分、気温の変化、夜間の遮断手順。
だが、生活は維持できても、孤独は減らなかった。
室内には物音が少な過ぎて、
返答のない空間は、日ごとに広く感じられた。
救済者はもういない。
去ったのか、死んだのか、
あるいは別の区画へ移ったのか。
残されたのは住居と、使われなくなった設備だけだった。
イブには心がある。
それは判断を速くする機能ではなく、
不在を不在として受け取ってしまう、逃れにくい感覚だった。
ここの独りでの生活は、イブには辛く感じられた。
彼女は出発を決めた。
eve.npaso.com の刻印のある家の扉まで確認するように歩く。
手すりの金属は冷たく、表面には細かなざらつきがあった。
2時間ほど歩き、奇妙な扉の前に到着する。
イブはその扉の先に何かがあることを直観し、
躊躇なく一歩を踏み出すのであった。